読書の秋と本の値段(2)
岡山の古本屋で牧野純夫『円・ドル・ポンド』を200円で買った。
奥付には「1960年12月20日 第1刷発行 ¥100」と書いてある。
この本を読んだのは8月なので、秋とはいえないかもしれない。
筆者は、通貨には金の裏付けがないといけないと考えている。以下引用する。
フンクのイデオロギーは大戦中の日本において大いに謳歌され、鼓吹
されたものであったが、それは東亜の各地に、また日本の国内に、インフレ
を激化させるばかりで、それが敗因をなしたことに気づくものはなかった。
これに反し、米英の方式はつねに通貨の足場を金にもとめるものであり、
最後にでき上がった国際通貨基金も、まさにこの趣旨にそうものであった。
管理通貨は金との結びつきからはなれて、国家が通貨の価値を
管理するといっても、やはりなんらかの形で、その足場を金につけて
いなければばならない。第二次大戦はそのことを明確におしえた。
(フンクはナチスドイツの経済大臣)
実に味わい深い文章だ。つまり、筆者は、
金本位制は
連合国で、管理通貨制度は枢軸国だといっている。
しかし、現在の通貨制度は、金本位制ではなくなっている。
1971年に
アメリカは金本位制を放棄し、現在に至るまで管理通貨制度が続いている。
通貨制度の分野に限ればナチスドイツが勝ったことに
なるのだろうか。
この本の中で、さらに面白いのが、筆者がソ連を賞賛しているところだ。
しかし、ルーブルが強化されていくにひきかえ、ポンドは再建されたとは
いえ、域内諸国からつよく遠心力をうけており、ドルも相つぐ金の流出
をみて、もはや動揺を蔽いかくせなくなってきた。いまでは、「貨幣は
金でなければならない」という問題ではない。貨幣が金でなくては
ならぬその上に、金の価格が一方では上昇して止まることなく、他方では
逆に下がっていく、その動向の意味するものを考えねばならなくなった
のである。
別のところに、
ソ連が1950年に金価格を下げたという記述があり、
金の価格が上昇するのが、資本主義で、金の価格が下がるのが
社会主義のソ連ということになっている。その後、ソ連がどうなったのかは
知っての通りだ。
しかし、ソ連が金価格を下げたことが、ソ連経済にどのような悪影響を
与えたのか分からない。インターネットで調べてみたが、全く資料がなかった。
金価格を下げるということは、現代でいうと為替相場を上げるのと同じことで、
自国産業の国際競争力が下がることだ。計画経済でも、労働者の
賃金や商品の価格はある。計画経済に関わる官僚が、ある商品を
自国で生産するよりも、外国から輸入するほうが安上がりなことに気づき、
外国からの輸入を増やすことを考える可能性はあると思う。
1960年にはこの本の価値は100円だったが、今では200円の価値がある。
1960年と比べて物価が上がったからといえばそうなのだが、それだけではない。
1960年にこの本を読んでも、あまり価値がない、当時はソ連を賞賛する
主張も多かったし、何より、この本の考えを元に未来予測をすると、
ことごとく外れてしまうからだ。
しかし、現代の視点から見れば、この本には価値がある。
経済史について知識がある人が、どのようにして間違った考えに陥るのか
ということを考えさせてくれる意味で、
1960年に比べ本の価値が2倍に
なったといえる。
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